46.災害時の心理について①
今年の幕開けは大変な災害から始まりました。被災地の人々には心からお見舞いを申し上げます。一応、私も前職では災害医療の専門家(のつもり)として、学生相手に「災害心理」「災害対応」「災害看護」「国際保健」などを講義していました。被災地の救援にも何度も行かせていただきました。今も多くの知人やかつての仲間の医師や看護師たちが被災地に向かっています。
さて地震災害の翌日に羽田空港で起こった航空機事故について少し書きたいと思います。
災害心理の講義で繰り返し学生に言っていたことですが「災害時に人はパニックにならない」ということです。今回の事故の詳細についてはまだよく知らないのですが、CAさんの適切な判断と誘導によって、乗客の全員が安全に避難できたことは素晴らしいことと思っています。
パニックという単語は、かつては心理学、とくに社会心理学で使われていたように思います。今はどちらかというと精神病理的な分野でパニック障害などの関連で使われることが多いように思います。社会心理学でパニックは、「非合理的な逃走行動」と意味づけされているのですが、精神科では「感情や行動の調整不能な状態」と説明されています。街頭インタビューや事故後の被害者インタビューでは「びっくりしてパニックになっちゃって」と言われるのをよく聞きます。これらの人の言う「パニック」は「めちゃくちゃビックリ仰天しちゃった」っていうことだと思います。
社会心理学界隈では、「パニックが発生する時」についてのなかで次の4つの条件がある場合に起こるとしています。
- 緊迫した状況に置かれているという意識が、人々の間に共有されていて、多くの人々が差し迫った脅威を感じている。
- 危険を逃れる方法があると信じられる。
- 脱出は可能だという思いはあるが、安全は保障されていないという強い不安感がある。
- 人々の間で相互のコミュニケーションが正常には成り立たなくなる
1985年に死者520名を出した日航機墜落事故の記録にも、飛行機内では非常に統制がとられていて、乗客はCAの指示に従い、また近隣の者の酸素マスクの装着などを手伝ったりして、冷静に非常態勢をとっていたといいます。この場合、飛行機内でどうあがいても、例え非常口に突進したとしても助からないというのが理解されており、唯一の望みはプロの指示に従い、冷静に行動することが助かる希望であることが理解されていたのでしょう。被害にあわれた方の遺書なども発見されており、「自分はたぶん助からないだろう」と理解されていたのだと思います。
今回の羽田空港の事故においても、人間は冷静に自分の命が助かる術を理解し、それがCAの指示に従うことであると判断できたのだと思います。
非常時に避難の指示を出して導くリーダーの存在は非常に重要であると感じました。よく訓練されたCA、自らの職責を全うできる機長のプロの存在がカギとなっています。 日航機の事故のみならず、日本にはその他の多くの自然災害があります。そのたびに日本人の対応の素晴らしさが海外で報じられていますが、おそらく海外であっても、災害時にパニックや略奪は起こらないと思っています。そのことについては、次回に。。。。。
参考文献
広瀬弘忠:人はなぜ逃げ おくれるのか