50.メメント・モリって何だ?
「死への絶望失くして、生きることへの愛はない」アルベルト・カミュの言葉です。もうすっかり忘れてしまいましたが、高校生の時にカミュの「異邦人」を読みました。なんかよくわかりませんでした。
私のような医療に係るものは、おそらく普通の人よりも死を間近に感じることが多いように思います。死も病も、ある日突然にやってきます。いかに長患いで病に伏している人に対しても、最期の時は予期せずにやってくるのではないでしょうか。がんや心臓病、脳卒中のようなメジャーな病気でなくとも、人間の罹る病気の種類は数えきれないほどあります。治療法がないだけでなく、原因もよくわからない病気もたくさんあります。そして人は、なんとか病気を克服して、元の元気な自分に戻りたいと願います。その願いに寄り添うのが医療です。そして一度は病を克服して、病魔に打ち勝ったとしても、人は必ず死ぬので、最後はいつも医療が病気に負けてしまうのです。
生きとし生けるものには必ず終わりがある。だからこそ、今のこの時を大切に過ごさなくてはならないのです。今のこの時は奇跡の時なのです。
「メメント・モリ」とは自分がいつか必ず死ぬということを忘れずに、死を思いながら生きろというラテン語の言葉です。昔、流行ったように記憶しています。当時は棺桶に死装束で入って自分の死を仮想体験するようなイベントがありました。私はそのイベントの映像をとても不思議な気持ちで眺めていました。棺桶に入らなくても、とりあえず死を思うことこそ、私たちの生を瑞々しくするのでしょう。
そして素敵な人生の一時を過ごしていただくために、痛みや苦しみを和らげることができる鍼灸師になりたいと思います。