12.鍼灸にできること ⑤自律神経を整える
以下の記事は、鍼灸の教科書(「はりきゅう理論」東洋療法学校協会)からの引用を含みます。
生体の多くの臓器は自律神経である交感神経と副交感神経のバランスによって調整されています。
自律神経という言葉は、ほとんどの方が聞いたことがあると思います。簡単に言うと、活動するときに働くのが交感神経、お休みするときに働くのが副交感神経です。かけっこのスタートラインに立った時を想像してください。「位置について~~~~」「ヨ~~~~~イ・ドン」のこの瞬間が交感神経の最大値です。心臓がバクバク、気管支は広がりより多くの酸素を吸い込みます。胃も大腸も活動を止め、瞳孔は見開き、身体のあらゆる器官が臨戦態勢をとっています。この時は交感神経が活性化しているときです。反対に副交感神経が優位な時とはどんな時でしょう?心拍は穏やかになり、ゆっくりと睡眠に入る状態です。人は昼間に交感神経、夜間に副交感神経が優位になることで身体のバランスをとって生活しています。この交感神経と副交感神経を合わせて自律神経といいます。
さてこの自律神経は様々なストレスによって乱れることがあります。夜、本来ならば副交感神経が優位になって、身体は休息モードになって睡眠にと導入されるはずなのに、夜間も交感神経の活動が下がらずに身体が臨戦態勢のままの状態になることがあります。私が若い時にやった研究では、24時間勤務の消防士さんは、夜、数時間の仮眠が得られていたとしても、その間も交感神経の活性は下がらず副交感神経が優位になることがありませんでした。すなわち24時間勤務では、自律神経が乱れていることが明らかになりました。
さて様々な要因やストレスによって、自律神経のリズムが乱れると身体に影響を及ぼします。夜眠れない、食事がおいしくない、便秘や下痢をする、胃が痛む、動悸や息切が起こる、感情の麻痺、眩暈や耳鳴り、体力の低下によるヘルペスなどの様々な身体の不調が起こります。
このような自律神経に対して、鍼灸では、手足に刺鍼すると副交感神経が活性化し、腹部に刺鍼すると交感神経が活性化するといわれます。これらは体性内臓反射といわれています。
実際の臨床場面では、古来より「ある症状に対して効果のあるツボ」に対して刺鍼し、電気刺激をくわえることで、様々な症状の緩和を行います。前立腺肥大による排尿障害や薬物療法併用下での高血圧症などに効果があるといわれています。自律神経を調整することで、不眠や胃腸の不調や様々な不定愁訴の症状緩和に効果があります。
参考文献
S Mitani, M Fujita, T shirakawa. Circadian variation of cardiac autonomic nervous activity is disturbed in Japanese ambulancemen with a working system of 24-hour shifts. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2006; 79: 27-32.
24時間勤務体制が日本の救急隊員の心臓自律神経日内変動に及ぼす影響
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/144433/1/ysyak00010.pdf